国鉄民営化による1987年4月に発足したJR東日本。
発足以来、順調に成長を続けてきましたが当期(2021年3月期)は新型コロナの影響で人流が激減したことで民営化後初の赤字となりました。
売上高(営業収益)は前期からなんと約1.2兆円(40.1%)も減少。これは当期の小田急・京王・西武・東京メトロの鉄道4社の売上が吹き飛ぶのと同規模のインパクトがあります。
セグメント情報を見ると主力の運輸事業(鉄道やバス)の売上が前期から約9000億円(45.1%)も減少。
特に新幹線への打撃が大きく、輸送量は前期比64.7%減、在来線も32.1%減となり緊急事態宣言やテレワークの影響で利用者が急減したことがわかります。
そのほか、流通・サービス事業(キオスクなどの駅構内店舗や中吊り広告などの広告代理店事業)は約1800億円減、不動産・ホテル事業(ルミネ、アトレなどの駅ビルやオフィス、ホテル業)は約800億円減といずれも大幅な減収となりました。
現状では鉄道の損失を補完できる事業がないのが実態です。
売上が大幅に減少した一方で営業にかかる費用は前期から2809億円(10.9%)しか減らせていません。
鉄道事業は車両やレールなどの整備費、修繕費、人件費など、固定費の割合が高く、売上の減少に伴って費用を削れません。
そのため損失が膨らみやすく、営業利益は5204億円の赤字(前期比9012億円減)に転落しました。
さらに特別損失の項目で「減損損失」を800億円計上しています。減損損失は保有資産の収益性が低下し、投資したお金を今後回収できないと判断した場合、その差額(投資金額-今後得られる予定の収益)を損失として計上するもの。
当期は運輸事業から551億円、不動産・ホテル事業から200億円が計上されています。
ここから同社が新型コロナによる収益減少が今後も長期間にわたって続くと考えていることがうかがえます。
これらの結果、当期純利益は5779億円の大幅赤字となりました。これはANAの4046億円、日産の2287億円を上回って同年度企業決算では最大の赤字額です。
17年3月期 | 18年3月期 | 19年3月期 | 20年3月期 | 21年3月期 | |
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売上収益(売上高) | 2,880,802 | 2,950,156 | 3,002,043 | 2,946,639 | 1,764,584 |
営業費 | 2,414,492 | 2,468,860 | 2,517,182 | 2,565,797 | 2,284,943 |
営業利益 | 466,309 | 481,295 | 484,860 | 380,841 | -520,358 |
(売上高営業利益率) | (16.2%) | (16.3%) | (16.2%) | (12.9%) | (-29.5%) |
経常利益 | 412,311 | 439,969 | 443,267 | 339,525 | -579,798 |
特別利益 | 54,735 | 30,806 | 74,715 | 64,286 | 43,467 |
特別損失 | 62,781 | 49,181 | 89,363 | 119,636 | 167,260 |
減損損失 | 6,604 | 4,176 | 2,275 | 7,577 | 80,032 |
親会社所有者帰属当期利益 | 277,925 | 288,957 | 295,216 | 198,428 | -577,900 |
総資産額は8.9兆円と前期より3794億円(4.4%)増加。資産の約9割は固定資産が占め、前期から有形固定資産が1561億円、投資その他資産が1559億円ふえています。
また、流動資産の項目では現預金が442億円(28.7%)増加。先行き不透明な状態に対処できるように手元資金を厚くしたことがわかります。
この元手は何でしょうか?
貸借対照表の右側をみると短期借入金が3180億円、長期借入金と社債が計4884億円増加。
成長は借入によって支えられていることが分かります。一方、当期の最終損失5779億円を計上して利益剰余金が減少したことで純資産は前期比で6161億円(19.4%)も減少。
その結果、自己資本比率は36.9%から28.4%へ低下し財務体質は悪化しました。
そのほかの安全性指標を計算するとインタレスト・カバレッジ・レシオは6.4 倍からマイナスへ、ネットD/Eレシオは0.85倍から1.34倍へそれぞれ悪化。1年以内に返済が必要な負債だけでも計5233億円です。
バランスシート
20年3月期 | 21年3月期 | |
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資産の部 | ||
流動資産 | 857,624 | 898,406 |
現金及び現金同等物 | 153,967 | 198,130 |
受取手形及び売掛金 | 516,388 | 470,611 |
固定資産 | 7,679,435 | 8,018,013 |
有形固定資産 | 6,962,034 | 7,118,150 |
建物及び構築物 | 3,592,627 | 3,789,310 |
土地 | 2,121,843 | 2,145,694 |
無形固定資産 | 124,280 | 150,825 |
投資その他の資産 | 593,120 | 749,037 |
資産合計 | 8,537,059 | 8,916,420 |
20年3月期 | 21年3月期 | |
---|---|---|
負債の部 | ||
流動負債 | 1,549,236 | 2,032,849 |
短期借入金 | 115,293 | 433,320 |
固定負債 | 3,814,395 | 4,326,209 |
社債 | 1,590,249 | 1,930,308 |
長期借入金 | 1,010,492 | 1,158,872 |
負債合計 | 5,363,632 | 6,359,058 |
資本(純資産)の部 | ||
利益剰余金 | 2,809,369 | 2,181,570 |
純資産合計 | 3,173,427 | 2,557,361 |
負債純資産合計 | 8,537,059 | 8,916,420 |
キャッシュフロー計算書
5000億円を超える営業損失が出たにもかかわらず、営業キャッシュフローは1900億円の流出に抑えられています。その理由は有形固定資産から発生する巨額の減価償却費3888億円が足し戻されたことと売上の減少に伴い売上債権が減少したことなどが要因です。
一方で苦境にも関わらず投資金額は7494億円と前期よりさらに増えています。
うち固定資産の取得に7655億円の巨費を投じていますが、内訳をみると輸送事業などの有形固定資産への投資額は6922億円で前年度から500億円ほど減少。反対に無形固定資産への投資額が増えたことがキャッシュ流出増の要因となっています。
これによりフリーキャッシュフローは9394億円のマイナスです。
同社はこの不足資金を短期借入金で3000億円、コマーシャル・ペーパー(1年未満の社債のようなもの)で2650億円調達することで補っています。
しかし、いずれも1年以内に返済が必要です。
18年3月期 | 19年3月期 | 20年3月期 | 21年3月期 | |
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営業活動によるキャッシュフロー | 704,194 | 663,801 | 548,692 | -189,968 |
減価償却費 | 367,997 | 368,722 | 374,742 | 388,828 |
売上債権の増減額 | -38,309 | -66,286 | 20,120 | 67,593 |
投資活動によるキャッシュフロー | -541,857 | -594,425 | -701,601 | -749,397 |
有形及び無形固定資産の取得による支出 | -578,156 | -649,037 | -703,908 | -765,482 |
フリーキャッシュフロー | 162,337 | 69,376 | -152,909 | -939,365 |
財務活動によるキャッシュフロー | -135,100 | -120,693 | 43,409 | 983,385 |
短期借入金の増減額 | – | – | – | 300,000 |
コマーシャル・ペーパーの増減額 | – | – | 150,000 | 265,000 |
現金及び現金同等物の増減額 | 27,236 | -51,374 | -109,595 | 44,002 |
現金及び現金同等物の期末残高 | 314,934 | 263,739 | 153,794 | 197,960 |
JR 東日本スタートアップ株式会社
JR東日本グループは、「TICKET TO TOMORROW~未来のキップを、すべてのひとに。~」のスローガンのもと、ベンチャー企業や優れた事業アイデアを有する方々と共に、
「JR東日本スタートアッププログラム」を通じて社会課題の解決や豊かで幸せな未来づくりを目指します。本プログラムでは、駅や鉄道などの経営資源、グループ事業における情報資源を活用したビジネスやサービスの提案を募り、アイデアのブラッシュアップを経て、新たな価値の創出を目指します。